行旅死亡人 統計と傾向

全国の行旅死亡人:過去10年間の統計と傾向

行旅死亡人(こうりょしぼうにん)は、身元が分からず引き取り手のない遺体に対する法律上の呼称です。明治時代制定の「行旅病人及行旅死亡人取扱法」に基づき、発見された自治体の長が火葬や埋葬を執り行い、官報に公告して身元や引取手を捜します。 近年、日本は「無縁社会」と呼ばれ、誰にも看取られない孤独死が年間3万人を超えるとも言われます。 その中で行旅死亡人は毎年数百件発生し、社会の孤立と無縁化の一端を象徴しています。 以下では過去10年間(おおむね2015~2024年)を対象に、行旅死亡人の件数や年齢層、発見場所、死因、男女比といった統計と傾向を、公的データを中心にまとめます。

年間件数の推移

行旅死亡人として官報に公告される件数は、この10年ほど概ね横ばい傾向にあります。 2000年には全国で1,194件に上りましたが、その後減少し、2005年以降は年間1,000件未満となりました。 2012年には724件まで減少し、直近数年間は年間600~700件台で推移しています。 例えば総務省が全国調査を行った2018年4月~2021年10月の約3年半では、行旅死亡人の事例は少なくとも2,852件(年間換算で約800件弱)報告されています。

このように 年間数百件規模 で発生し続けているものの、件数自体は大きな増減を見せていないことが指摘されています。 一方で、身元は判明しているものの引取手がない遺体(いわゆる無縁仏)は近年増加傾向にあり、同じ調査期間に1万154件と行旅死亡人の約3.5倍に達しています。 行旅死亡人の件数が横ばいとはいえ、毎年これだけの「名もなき死者」が存在する現状は看過できない社会問題と言えるでしょう。

年齢層別の傾向

行旅死亡人となる人々は中高年層に偏る傾向があります。 公式には年代別の詳細統計は公表されていませんが、官報公告データの集計によれば、 推定年齢が判明しているケースでは50代以上の中高年層が約75%を占めています。 中でも60代が最多で、次いで70代以上や50代が多く、社会的に孤立しがちな高齢者層に行旅死亡人が多い実態がうかがえます。

また若年層の行旅死亡人は稀で、未成年者は数%程度に過ぎません。 一方、遺体の損傷・腐敗などにより年齢不詳となってしまうケースも少なくなく、 過去10年の公告情報全体の約7割は年齢すら特定できない状況です。 年齢不詳の場合、その多くは白骨化するまで発見が遅れた孤独死や行方不明者の成れの果てと推測されます。 年齢層の分布から、行旅死亡人問題は高齢化社会・孤立死問題とも深く結びついていることが読み取れます。

死亡場所の傾向

行旅死亡人がどこで発見されるかにも特徴的な偏りがあります。 身元不明遺体の発見場所として多いのは人里離れた屋外です。 2005~2009年の集計では、「山林・雑木林」「河川・沢・池・湖」「海中」といった自然環境中で発見されたケースが 全体の約46%を占めました。

こうした場所における発見が多いことから、自殺との関連性もうかがえると指摘されています。 実際、山中や河川敷での首吊り、自ら入水しての水死、鉄道飛び込みによる死亡といったケースが少なくありません。 都会の繁華街よりも、人目につかない場所で亡くなっているケースが多いのです。 また、公園の茂みや橋の下、空き地などで倒れているのが発見される例や、無人の廃屋・空き部屋で亡くなっていた例も報告されています。 場所の傾向から、行旅死亡人には社会との接点が希薄になった末に命を落とした人が多いことが浮かび上がってきます。

死亡原因の内訳

行旅死亡人の死因内訳を見ると、詳細が不明な場合が大半を占めています。 先行研究による2005~2009年の合計データでは、死因が「不明・不詳(記載なし)」とされたケースが全体の約63.1%にも上りました。 遺体の状態や周囲状況から明確な死因を特定できない事例が多いことを意味します。

それ以外で判明している範囲では、自殺によると思われるケースが最も多く、次いで病死や事故死が続きます。主な死因別割合は以下の通りです:

こうした死因内訳から、行旅死亡人には自死によるケースがかなり含まれていることが分かります。 一方で病気による自然死も一定数あり、特に誰にも看取られず亡くなった高齢者やホームレスの病死などが考えられます。 また極めて一部ではありますが、経済的困窮による餓死・凍死や、事件・事故の犠牲者が身元不明のままとなっている例も存在します。

男女比

行旅死亡人の男女比は男性に大きく偏っています。 統計によれば、男性がおよそ8割を占め、女性は約2割に留まります。 実際、2010年以降の全国データでは男性約8,184件に対し女性は1,732件で、男性が女性の約4.7倍にのぼります。

この顕著な男性偏重は、社会的に孤立しやすいのが男性高齢者であることや、家族から見放されて行旅死亡人となるケースに男性が多いことを反映していると考えられます。 一方、女性の行旅死亡人もゼロではなく、高齢独居女性の孤独死や、若年女性の自殺・事件被害などが身元不明のままとなる事例も散見されます。 ただ総じて言えば、行旅死亡人は圧倒的に男性に多いというのが過去10年の変わらぬ傾向です。

社会的背景と行旅死亡人問題の重要性

行旅死亡人の統計から浮かび上がるのは、現代日本社会の孤立の深刻さです。 件数自体は横ばいながら毎年数百人規模で発生し、その多くは中高年の男性で、亡くなる場所も人知れずひっそりとした場所が多い。 これは、都市部への移住や家族関係の希薄化により身寄りのない高齢者が増えたこと、 男性高齢者に地域や福祉との接点が乏しいことなど、社会構造の問題を反映しています。

近年は身元が判明している無縁仏の増加がクローズアップされていますが、その陰で名も分からぬまま最期を迎える人々も後を絶ちません。 行旅死亡人の存在は、「誰にも知られずに人生を終える人がいる」という厳然たる現実を我々に突きつけています。 こうした悲劇を減らすには、地域社会の見守りや孤立防止、高齢者・生活困窮者への支援強化が不可欠でしょう。

官報の公告はひとつひとつは数行の事務的な記述に過ぎません。 しかしその背後には、一人の人生が誰にも看取られず途絶えた重みがあります。 行旅死亡人の統計と傾向を知ることは、「無縁社会」を生きる我々一人ひとりが抱える課題を直視することでもあります。 その重要性を踏まえ、社会全体で孤独死や無縁死を防ぐ取り組みに目を向けていく必要があるでしょう。

参考文献・出典: 官報公告データ、厚生労働省・警察庁統計、総務省調査結果、報道記事、学術研究など。有志による行旅死亡人データベースも参照。